柔らかい日差しが芽吹いてきた新たな命を包み込む。こちらの世界では春のようだった。
穴はドラえもんの説明どおりワカバタウンに繋がっていた。
いつものようにのび太を一番下にして6人が折り重なって倒れている。
どうやらここは広場のようになっているらしい。なぜかいつもの空き地にどことなく雰囲気が似ている。
民家が立ち並ぶ中で一際目を引く建物はウツギ研究所だろう。
「いててて……へぇー、ここがポケモンの世界?」
真っ先に立ち上がったスネ夫が誰ともなしに感想をつぶやく。
他の5人も立ち上がって泥を払っている。
みんながだいたい服装を整え終わったのを見届け、ドラえもんが口を開いた。
「そうだよ。じゃあ、ここからは一人一人別々に行動をとって競争しよう!」
「オーッ!ってちょっと待って。何もないのにどうやって旅しろって言うのさ」
のび太にしてはまともな疑問である。ゲームの場合にもポケギアやら最初のポケモンやら旅の準備というものがある。
「そこにリュックがあるでしょ。中に必要なものが全部入ってる」
いつの間にやらそれぞれの傍らにリュックが置いてあった。しずかのものは丸っこい、少し違う形をしている。
既にリュックをあさり始めていたジャイアンは、中から手のひらサイズのボールを取り出した。
「お、モンスターボールだぜ! 行けっ!」
中から現れたのは水色のワニ。おおあごポケモン、ワニノコである。
「おう! 気に入ったぜ! よろしくな」
ジャイアンはゲームでスネ夫からもらった(というか横取りした)オーダイルがかなり気に入っていたのだった。
「ボクのオーダイル……ん、あった! 何が出るかな?」
スネ夫のモンスターボールから出てきたのはヒノアラシ。
背中の炎の温度を肌で感じたスネ夫はポケモン世界に来た実感がようやく湧いてきた。
ポカポカした陽気も手伝い、夢見心地のスネ夫。
そしてその夢見心地を破るものはいつもの男である。
「おい、スネ夫! 何を寝ぼけてんだよ? 今から俺と勝負しようぜ!」
「えぇえ!?」
まさに寝耳に水。かくして半ば強引に二人はバトルを始めることとなった。
その隣では残りのメンバーがポケモンを取り出していた。
ドラえもんはチコリータ、しずかはピンプクがパートナーとなった。
広場の端っこでリュックの中身を検めていた出木杉のボールからはホーホーが飛び出してきた。
リュックの中にはポケギア、ポケモン図鑑、トレーナーカードなどの他にも歯ブラシ・タオル・石鹸といった生活用品まで入れられていた。
そしてなぜか、小さなヒメグマのぬいぐるみ。ティッシュは葉っぱで代用できてもこれは外せないと小さな説明が付いていた。
そんなリュックの中身がのび太の周りに散らばっている。
「ない……ない……えーっと……あった! 君に決めた!」
一度やってみたかったとばかりに定番のセリフを吐いたのび太の前に現れたのは……
「わっ!」
仰向けに倒れたのび太の顔の上ではみずうおポケモン、ウパーがぴょこぴょこ飛び跳ねていた。
「わぁ……かわいいじゃない」
しずかは抱きかかえてみたが、ウパーはすぐに逃げ出してのび太の顔面にもう一度ダイブした。
しずかは仕方がないとばかりにクスリと笑うとリュックを背負って踵を返すと、こちらを振り向いてこう言った。
「じゃ、あたしは行くわ。のび太さん、ドラちゃん、出木杉さんもまた会ったときにね」
「そうだね。じゃ、僕も行こうかな」
出木杉も準備が出来たらしい。
「またね、のび太くん、ドラえもん」
「うん、じゃあね」
「うー……」
笑顔で受け答えするドラえもんとは裏腹に、出木杉としずかの挨拶にうめき声で答えるのび太。
仰向けに突っ伏したまま手の先でモンスターボールを引き寄せ、ウパーを中へと戻した。
「ドラえもん……ぼくウパーイヤだよ……」
ドラえもんは返事もしないで広場の奥を見ていた。どうやらジャイアンとスネ夫の勝負が終わったらしい。
「勝った勝った。やっぱり俺様はこっちの世界でも最強だな。じゃあなスネ夫! のび太、お前もせいぜい頑張れよ!」
ジャイアンは意気揚々と飛び出して行った。
「やっぱりジャイアンはジャイアンだなぁ……」
ドラえもんは呆れたように言った。スネ夫を見やると、ブツブツ文句を言いながらリュックを背負っていた。
ちらりとこちらを見やった後、何も言わずにスネ夫は広場を出て行った。
こうして広場に残っているのは仰向けに倒れたままへばっているのび太と呆れたようにそれを眺めるドラえもんのみとなった。
「やっぱりのび太くんだねぇ……」
ドラえもんはポケットにリュックをしまう。
「仕方ないだろ! こいつが悪いんだよ、こいつが!」
地面に転がったままにされているモンスターボールを盛んに指差しながらのび太は息巻いた。
「ポケモンのせいにしたって仕方ないじゃないの」
「だってこいつが「ぎいやあああああああああ!!!!」
ドラえもんはいきなり飛び上がった! のび太もつられて飛び上がってしまった。
のび太には分かる。ドラえもんがこういうリアクションを取るのはネズミを見たときだけだ。でも、どこに?
「ネズミ! ネズミ! ネズミ!」
ドラえもんは広場を10週はしたかと思うと道へ出て猛スピードで走り去っていった。
のび太は突然の出来事に放心していたが、しばらくしてハッと我に返った。
見ると、広場の入り口にぎょっとしたように突っ立っている短パンを履いた少年がいて、その足元でコラッタが怯えている。
この世界の人間に出会うのは初めてだ。のび太は若干ドキドキしながら話しかけた。
「やあ、おろど……驚かせちゃってゴメン。あれ、ぼ、ぼくの友達なんだ」
「え?あ、ああ、ゴメ、ゴメン」
「ぼくはのび太っていうんだ」
「俺はゴロウ」
数秒間気まずい沈黙が流れる。……沈黙を破ったのはゴロウのほうだった。
「のび太、君はポケモン持ってるだろ? せっかくだから勝負しないか?」
怪訝そうな顔をして主人を見ていたコラッタは「勝負」の一言にきっとした表情になった。
「あ、う、うん。わかった……」
貰ったばかりのウパーに一抹の不安を抱きつつも、のび太の初戦が幕を開けることとなった。
2007年09月27日
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